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最高裁判所第二小法廷 昭和43年(オ)1263号 判決 1969年4月25日

当事者

上告人(原告・昭和四二年(ネ)第二、〇一七号控訴人・同年(ネ)第一、九八二号被控訴人) 湯川宗之

右訴訟代理人弁護士 中村生秀

被上告人(被告・昭和四二年(ネ)第一、九八二号控訴人・同年(ネ)第二、〇一七号被控訴人) 東京西南信用組合

右訴訟代理人弁護士 石川右三郎

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人中村生秀の上告理由一ないし三について。

原審の認定によれば、被上告組合の預金課長の職務権限は、預金の受払に関する窓口事務、預金通帳の発行、預金に関する伝票・記帳の整理などの事務に限られ、預金獲得のための外部との折衝などの渉外事務、被上告組合名義の小切手の作成交付などの事務に及ばず、また、被上告組合の代表者の記名印、代表者印の保管使用も預金課長に許されることはなかったというのであるから、預金課長たる笹森久男が、第三者と通じ、偽造にかかる被上告組合理事長の記名印、代表者印を用いて、被上告組合理事長振出名義の小切手を偽造した行為は、右職務権限との密接な関連を有するものとは認められずしたがって、右行為が外形上も同人の職務の範囲に属するものとはいえないとした原審の判断は正当として是認することができないものではない。右判断に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同四および五について。

原審の事実認定は原判決挙示の証拠に照らして肯認することができ、その認定した事情のもとにおいては上告人において本件小切手の偽造にかかる事実を知っていた疑いがありしたがって笹森久男において本件小切手の真正なものである事実を確認した行為が上告人の割引金支出の原因となったものとは認めがたいものとして、右行為と上告人の損害との間の因果関係を否定した原審の認定判断は正当として是認することができる。原審の判断に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 色川幸太郎 村上朝一)

上告代理人中村生秀の上告理由

原判決には民法第七一五条に違背している違法がある。

一、原判決は「笹森久男が本件小切手の偽造に加担した行為は外形上同人の職務の範囲に属せず、また同人が右小切手につき原告主張の確認をした行為と原告のいう損害の発生との間に相当因果関係の存在を認めえない」との理由で上告人の損害賠償の請求を棄却した。

二、しかして原判決はまず笹森久男が本件小切手の偽造に加担した行為は外形上同人の職務の範囲に属しないとの判断をなすについて…。

三、しかしながら、今日の金融機関に勤務する職員は地位の上下を問わず日常機会ある毎に預金の獲得に努力するよう義務づけられていることは公知の事実であり、預金獲得は預金課とか業務課とかの内部的な事務分担に関係なしに金融機関の職員の一般的な業務である。まして被上告人のような職員三〇人程度の信用組合における預金課長が組合の預金高を増やすために単に見せるためだけの用に供するために組合名義の小切手を偽造し、それを詐取されたために、その回収のために更に組合名義の偽造の小切手を振出したという本件事案においては、前記笹森の行為は外形的にみて同人の職務の範囲に属するものとみるべきである。

…以下省略…。

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